マーケティングサイエンス学習録

勉強したことをとりあえずここに集積していきます。

マーケティングサイエンスの全体感

マーケティングサイエンスの全体像や、研究テーマがよくわかる資料を見つけました。

消費者行動の異質性とダイナミクス

山口さんという方が博士論文の内容を整理したものらしいです。2023年現在では、名古屋大学マーケティングサイエンスの准教授としてお勤めのようです。

私の備忘録ということで、各章かいつまんで私なりの言葉で表現してみます。もちろん元資料を参照してください。頭の中がどんどん整理されていくと思います。

マーケティング実務でよくある問題意識

マーケティング戦略は、粒度によって3段階に分けられる。

  1. マスマーケティング
  2. セグメントマーケティング
  3. One-to-Oneマーケティング

マスマーケティングは、TVCMなど文字通りマス対して訴求する戦略。セグメントは、もう少し属性情報やサイコグラフィック的に顧客を分類して、セグメントごとに異なる戦略を練ること。例えば、ロイヤルユーザーと新規顧客ではマーケ施策も異なるよね、という話。最後にOne-to-Oneマーケティングは、いわば個々人ごとに最適なアプローチを考える戦略。そう考えると難しく感じるが、例えばECの広告やYoutubeのレコメンドって既にOne-to-Oneなので夢物語ではない。ただしそれらは機械学習などで複雑に構成しているため、おそらく解釈性は高くない。マーケティングサイエンスは、それらとは少しスタンスが異なると理解していて、マーケターへの知見還元が重要となってくる。そうすると、線形モデルや階層ベイズなどでのアプローチが主となってくるのかなーと。

One-to-Oneの世界では、「個」に焦点を当てるので、消費者間の違い、いわゆる「異質性」が重要となる。この資料ではそれに加えて、個人内での変化にも注目する。個人内とは、つまり時間的変化のこと。山口さんは、個人の異質性と時間的異質性の両方(資料では、消費者の異質性とダイナミクスと呼んでいる)を考慮したマーケティング戦略の高度化を目指した、ということらしい。

先行研究

まず、消費者間の異質性について先行研究を整理。

変量効果モデルと階層ベイズの棲み分けが上手く整理できていなかったけど、これで腑に落ちた。変量効果モデルは、あくまでもバラツキ(分散)の評価であり、階層ベイズは個々のパラメータ推定までスコープに入ってくるということか。

具体的な先行研究として、以下を紹介している。

山口,中島,岡 (2006),“支払い方法選択行動分析による"高価値"顧客の発掘”,オペレーションズ・リサーチ : 経営の科学,51(2), 81-88

One-to-Oneにクレジットカード支払いの利子に対する感応度を推定しており、「支払い金額次第で利子を許容」するユーザーを特定している。プロモーションのターゲットは彼らにするべきであり、一方で絶対に利子を許容しない層や思考停止で利子を許容する層はターゲティングしてはいけない。このように異質性が分かるとマーケティング施策の高度化につながる。

Webサイトへの訪問間隔

以下論文にて、Webサイトへの訪問間隔を分析している。

山口 (2014),“頻度の時間変化を考慮した階層ベイズモデルによるウェブサイト訪問行動の分析”,マーケティング・サイエンス,22(1),13-29

訪問間隔が指数分布に従うとしてモデリングをしている。説明変数を、一時効果と経時効果に分けて、それぞれが訪問間隔に与える影響を検証している。

推定結果を見てみると、前回購入数は次回の訪問までの期間を延ばすらしい。これは「購入」というモチベーションが満たされた後は、しばらく訪問しなくなるということだろう。

消費者心理状態と購買量の関係

以下論文にて、心理状態と購買量の関係分析をしている。

山口 (forthcoming),“消費者の心理状態の変化を考慮した動的モデルによる購買量分析”,マーケティング・サイエンス,forthcoming

モデルは少し複雑だけど、やりたいことは明確。要するに、消費者の気分によって購買量って変わるよね?という話。例えば給料日や、晴れている日などに気分が上がって購買量が上がる人は多いはず(もちろん、そうではない人もいるので異質性が大切になってくる)

この論文では、クーポン購入サイト*1のデータで数値実験している。目的変数は購入クーポン種類数。 ちなみに、消費者の心理状態は隠れマルコフにてモデル化している。

結果はこの通り。

心理状態で、購入意欲が高い状態と低い状態を表現できているとのこと。また、どうすれば購入意欲の高い状態へ遷移するかも読み取れる。

消費者行動と認知的不協和

これまた聞きなれないワード、認知的不協和。とても平たく言うと、買いものに対する後悔みたいな感じかな。資料中ではこんな風に説明されてる。

  • 商品の購入やブランド選択など,数多くの意思決定が発生
  • 意思決定をするということは,選ばない選択肢を決めることであり,消 費者は選ばない選択肢の持つ魅力を諦めるという事態に耐える必要 が出てくる

なるほどなるほど。どういう購入行動を取ると、その後の後悔につながりやすいか?を詳らかにするのがモチベーションってことか。ECサイトのデータを使って数値実験をしている。

認知的不協和を目的変数に据えたいわけだが、定義はこうしているらしい。

ある商品のオーダー後,同一セッション内にて再びこの商品のページ閲覧があった場 合,この商品を「認知的不協和の起こった可能性のある商品」と見なす

あれ?なんか思ってたのと違う…って思ったら確かにもう一回購入ページ行って写真とか詳細説明確認するもんな。納得。

いろいろとすっ飛ばして、階層モデルの結果はこちら

なるほど。赤い変数は不協和を起こしづらいが、青い変数は不協和につながりやすい特徴ってことか。確かにカラバリが多かったり、セールで勢い余って買った場合って後悔しやすいかも。一方で、普段からよく訪問するユーザーや古参ユーザーは後悔しづらい、いわばECでの買い物が上手とわかる。

まとめ

以上、消費者の異質性とダイナミクスを考慮しつつ、3つの問題を扱ってきた。

  1. 訪問間隔
  2. 心理状態と購入量
  3. 購入に対する後悔、ネガティブフィードバック

マーケティングサイエンスの研究って、こうやって進めるのかーととても勉強になりました。

*1:クーポン購入サイトってなんだ??