Marketing Science Notes

日々勉強したこと。博士課程奮闘中

読書録:マーケティングは進化する(改訂第2版) -クリエイティブなMarket+ingの発想

2年近く更新していなかったが、近々転職する関係で勉強しなおしているので、少し更新します。 ただ私は筆無精で続かないことがわかったので、できるだけハードル低くやっていきます。

今回は、明治大学の水野先生が書かれた以下の書籍

を読みました。

マーケティングサイエンスの全体感が分かる、とても情報が整理された本だと思います。ROIの話、マーケットシェアとダブルジョパディの話、プロダクトライフサイクルやプロダクト開発におけるコンジョイント分析の話などなど、マーケティングに関わるお仕事をされている方ならどなたでも得るものが多い本だと思いました。

私はマーケティングの中でも、デジタル広告やインセンティブ施策の最適化を担当しているデータ分析者なので、コンジョイント分析やらバスモデルなどは使ったことがないですが、マーケティングに関わる以上は知っておいて損はないと思い勉強しました。

ちなみに、最近発売された森岡毅さん・今西聖貴さんの書籍「確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか」では、私のやっているデジタル広告で認知を取ったり、クーポン施策で背中を押す系の施策をカリカリ最適化している人は「マーケター」ではなく、「デジタル・プロモーター」と呼ぶべきだと主張されていました(私も森岡さんのようなマーケターに憧れはしますが、確かにマーケターとして一括りにするには無理があるくらいに性質の違うものだと思います。)

さて話を戻して、水野先生の書籍を読みながらメモした点がいくつかあるので、感想とともに残しておきます。

マーケットシェアとROIの話

PIMSという研究プロジェクトで明らかになったのが、マーケットシェアとROIは正に相関する、ということだそうです。つまり、自社プロダクトのマーケットシェアが高い場合はマーケティング施策による利益創出もしやすい(ROIが高くなりやすい)ということでしょうか。さらに、シェアだけでなく競合プロダクトに対する相対的品質が高いときにROIは群を抜いて高くなるそうです。ただし、投資に対する売上が収穫逓減の局面にないことが条件になります。ロジャースのユーザー分類で言えば、Early majority / Late majorityあたりまでなら有効、という感じでしょうか。あまりにも非効率な層を狙う局面においては、マーケットシェアとROIは必ずしも正の相関を示しません。

コンジョイント分析

マーケティング・サイエンスでは、製品を「属性の束」と捉える見方が一般的です。コンジョイント分析でも、各プロダクトの効用(utility)を目的変数にして、各属性から線形回帰することで、属性ごとに重要度を割り振っています。この線形回帰モデルにおいて、それぞれの属性は並列に置かれているだけなので、「束」という表現がとてもしっくり来ます。各消費者は、この属性の束を吟味しながら最終決定を下すというモデルなわけです。

ただし、コンジョイント分析が苦手とする場面もあります。その1つが、消費者が非補償型の意思決定を下すときだそうです。補償型の意思決定とは、例えば「属性Aには満足しているが、属性Bはイマイチ。だけどまぁ属性Aが最高だから良いか!」のように、属性間でトレードオフが正しく起きるメカニズムです。一方で非補償型とは、属性同士は並列な束ではなく、明確な階層構造があるため互いに補完できない場合を指します。例えば、Apple製品ありきで考えている消費者は、他ブランドのカメラの画素数だとか容量だとかはAppleブランドの補償にはならない訳です。このような明確な階層構造(Apple製品じゃなければ、他のどんな属性も無視する)がある場合は、コンジョイント分析の予測精度は悪くなります。

また、コンジョイント分析とはいえ、中身は重回帰分析なので多重共線性には注意が必要です(これは本書には書いていません。私が大学の講義で習ったことです。)。よくコンジョイント分析にて、「価格」を属性としていくつかの水準を示しているものがありますが、価格は他の属性の束により決定される従属変数と考えることができるため、属性としては適していないという主張です。数理的観点からも、他の属性と価格は多分に相関しているので、「解釈」を目指すコンジョイント分析には不適切だと思います。

広告効果について

「測定できないものは管理できない」という言葉があるそうです。広告の管理においてもこれは当然重要な観点になります。本書では、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカで百貨店王と呼ばれたジョン・ワナメーカーの言葉を紹介しています。

私が広告に費やすお金の半分は無駄なことはわかっている。問題は、それがどちらの半分かわからないことだ。

昔は広告効果の定量化は難しかったんだろうと思います。今はMMMなどの手法を使い、各メディアチャネルのROIを定量化することが可能になってきました。そういえばGoogleからMeridianというパッケージがリリースされましたね。 blog.google

また、広告は製品について具体的なことを語らなくても、消費者が広告を好きになりさえすれば、そのブランドを好きになり得るということも言及されています。「あれ、結局今のCMって何が言いたかったの?」というものはよくありますが、有名人を起用して広告そのものへの好感度を上げられていれば、効果はあるというわけです。