マーケティングサイエンス学習録

勉強したことをとりあえずここに集積していきます。

グレンジャー因果によるブランドスイッチの分析

今回はこの論文を読みました。細かい数式は追えていないけど、お気持ちは理解できたはず。

宮崎 慧, 星野 崇宏, 階層ベイズ動的モデルによるブランドスイッチングの分析:グレンジャー因果性検定の利用, マーケティング・サイエンス, 2013

モデルの全体像

複数ブランドの消費者行動間の因果関係について分析したもので、消費者セグメントレベルでの異質性も入れている。また、因果関係とは言ってもグレンジャー因果なので少し注意。

これがモデルの全体像なのだが、階層部分に消費者のクラス分類モデルが入っているのが面白い。

実務でone-to-oneの異質性考えると到底MCMCが回らないから、こういうセグメントレベルでの異質性はアイディアとしてすぐに活用できそう。しかも、これセグメントをGivenなものとして分析者が決めるのではなく、モデル側に任せているのも個人的には嬉しいポイント。セグメントごとに反応パラメータ(ki)が推定されるという感じか。もちろんクラス数はハイパラなので、次の数値実験で対数周辺尤度でチューニングしてる。

数値実験

フェイスティッシュ市場データで数値実験をしている。

2002年から2003年における購買回数上位 3 ブランド(Kimberly,Irving,P & G)およびその他のブランド群を1 ブランドにまとめた合計 4 ブランドのうちいずれかを,単一でも複数でも異なる購買機会で5 回以上買った1191世帯を抽出した。

さっき出てきたクラスター数と、あと自己回帰モデルなのでラグ数を対数周辺尤度の大きさで決定していた。今回はクラスター4つに落ち着いたらしい。

クラスター別に推定パラメータを見てみると色々とわかってくる。

例えば、クラス1はKimberlyへのブランド嗜好性が強く、チラシ広告や店頭陳列(ディスプレイ)に反応しやすいセグメントとわかる。クラス2は、とにかく価格反応度がセンシティブだなーとかわかってくる。

クラス別に、購買行動のグレンジャー因果を描画してみると、ブランドスイッチについて示唆が得られてくる。

クラス1に関して筆者らの考察は

クラス 1 では Irving と P & G の間でスイッチングが起きているが,P & G の購買後もしくは Irving の非購買の後に Kimberly へ移行する,つまり Kimberly がより好まれる傾向にあることが 見て取られる。

ということらしい。非購買のグレンジャー因果の解釈がちょっとむずかしい気がする。 他にも色々な数値を考察はしていたんだけども、結局どういうマーケティングメッセージなるか?というと、Kimberlyに関してこんな風にまとめられている。

本研究のフェイスティッシュ市場データの解析では,Kimberly はクラス 1 ではロイヤ ルティが形成され,クラス 4 では習慣的に購買している傾向がみられる。クラス 2 とクラ ス3に所属する消費者のロイヤルティを形成するためには,クラス 2 に対しては価格プロ モーション,クラス 3 に対しては店頭陳列が有効であると推察される。

なるほどなー。そもそも購買習慣があるクラスタと、少しプロモーションすればスイッチングしてくれそうなクラスタなどを振り分けることができそうだ。

感想

競合のトランザクションデータが入手可能なら、こういうVARを使ったモデリング楽しそうだなぁ。ただし、グレンジャー因果は我々が考える因果関係とはギャップがある点に注意したいが、メッセージだけ社内で一人歩きしたら、みんな正確な因果効果だと思っちゃうんだろうな。

自分の分析の幅が広がる、なかなか読み応えのある論文でした!星野先生の名前よく見るなぁ。